AP/FD NEWS Letter 創刊号
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かつ必要とされる基礎スキルとしての共通性があり、これらの総称として《就業力》という用語があります。社会的・職業的に自律し、キャリアを形成するためには、①主に初等・中等教育で学ぶ基礎学力が基盤にあって、②汎用的基礎スキルとしての就業力、③高等教育以降および就業後に継続的に培う職務遂行上の個別・専門スキルがあるという構造です。2.就業力の実態 汎用的基礎スキルとしての就業力の重要性と必要性は従前から指摘されていますが、あくまでも概念の提示であり、就業力に含まれる個々のスキルの具体的中身は漠としています。企業等の組織内で、就業力が具体的にどのように発揮されることが期待されているのか、実態として新卒の社会人が企業活動のどんな場面でどんな困難やギャップを感じているのかを明らかにしなければ、大学のキャリア教育においてどんな対策を講じればよいのかも想像の範囲でしかありません。そこで、大学教育総合センター キャリア支援部では、平成25年度に産業界ニーズ調査を実施しました(注4)。調査方法は、フォーカス・グループ・インタビュー法、または個別インタビューで、企業の人事担当者が14名、および本学の卒業生(入社2年目、5年目)22名が対象でした。 「ニーズ」とは視点を換えれば、現在「不足していること」、つまり課題です。若手社員の抱える課題を企業側・本人側の両面から探ることで、就業力の具体的な中身を抽出するのが狙いです。以下、主要な調査結果を紹介します。(1)入社1~2年目社員の課題から 社会人1年生にとって、企業組織はそれまで所属していた教育機関と異なり、全くの別世界です。慣れてしまえば何でもないことに戸惑ったり、入社前に思い描いた理想と現実とのギャップや世代の異なるオトナたちとの人間関係に悩んだりします。では現実に職場で何が起きているのか。調査対象の卒業生には、新入社員の頃、具体的にどんな場面で、どんな状況になり戸惑ったか、それらをどのように克服したか(克服しようとしているか)を訊ね、企業側の人事担当者には、新入社員に求めることと、入社1年目の社員に特徴的に見られる躓きについて訊ねました。 企業側が新入社員に求めることをひと言で表現すると、「どんな場所でも適応する柔軟性や忍耐力を備え、自ら考えて主体的に動くことができる」人ということでした。細分化した項目としては、以下が挙げられました。①仕事をやり遂げる責任感(主体性)②自ら課題や改善点を探し、よりよいものを生み出す課題解決力③仕事の本質を理解しようとする問題発見・情報収集力④異質なものを受け入れ広い人間関係を築くコミュニケーション力⑤よい意味での競争意識⑥取引先や先輩・上司との電話、メールのやりとりのマナー⑦理想と現実とのギャップを乗り越える忍耐力・適応力 「①仕事をやり遂げる責任感(主体性)」について、企業側は「組織で物事を進める際、自分がわからない、と言うことが、自分の義務だとわかっていない。つまり、勉強ならわからなくても自分の成績が悪くなるだけだが、チームでの仕事では全体に影響する(文系人事の発言)」、「仕事をやり遂げるという責任感があれば、恥ずかしくても、聞くなり何なりしなければいけない。学生時代は好きな人だけでコミュニケーションをとっていればいいが、社会は違う(文系人事)」と言います。一方、卒業生側は「分からなかったら早く聞けよと言われる。でも、聞きに行ったら、あとにしろと言われることもある。その辺が怖い。これを聞いたらまずいんじゃないか、分かっていて当然と言われるんじゃないかと(文系卒業生)」、「仕事を進めるにあたり、どこまで自分で考えて作業をし、どこまでやって分らなければ聞いた方がいいのか、その辺のサジ加減にいまだに迷うことがある。ギリギリになってヤバイ、となった(文系卒業生)」と漏らします。 チームで行う仕事の本質を、新入社員はなかなかイメージできないのです。仕事の当事者であるにもかかわらず、忙しそうな上司への遠慮、叱られたくない優等生意識などから相談のタイミングがつかめません。これはコミュニケーションの課題というよりも仕事を遂行する上での責任感の問題であり、担当する仕事の捉えかた、つまり主体性の問題が根底にあります。もちろんここには、上司の対応姿勢に問題があるケースもあるが、本稿では言及しません。 「②課題解決力、③問題発見・情報収集力」について、企業側は「言われたことをやるが、自分はこうしたいというのがあまりない。どうしたらいいですか、など受け身な言葉が多い(文系人事)」、「マニュアルがないとできないし、動かない(理系人事)」、「得意なものはやるが、うまくいかないことには触れたくない。苦手なことをやるにはストレスが溜まるから、そういうのがイヤなのか(文系人事)」、「何回か答えを持ってきて、違うよ、まだダメだよというと、もう分かんないという感じになってしまう。一つのことをグッと考えていくような体力が少ない。じゃあ答えは何ですか、と聞かれることもある(文系人事)」との不満が目立ちます。一方、卒業生側は、「仕事のざっくりした枠組の内容しか言われなくて、どうやっていくのか分からないまま投げられ、実験のやり方や考え方もどうやっていいのか分からない(理系卒業生)」、「大学時代は分らないことは、もう自分で考えることをしていなかったような気がする(文系卒業生)」、「丸々聞くわけにもいかないし、自分が分かっていることをここまでは分かっていますと伝えようとするが、逆にそれがうまく伝わらない。70~80%分かる状態で残りの20~30%を聞くとかの状態なら問題はないのだが(文系卒業生)」と悩みます。 教育を「受ける」立場から、自らサービスや商品を「提供する」職業人の立場への意識の転換ができていないのでしょう。表面上は課題解決力等の問題ですが、やはり根源的には当事者意識など主体性の問題です。また、経験が浅く業務の全体構造を把握できないことも要因と考えられ、業務知識・経験の問題でもあります。5YNU AP/FD NEWS Letter

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