AP/FD NEWS Letter 創刊号
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業生)」など、表面的な行動レベルの答えが返ってきました。 この点について、ある企業人事担当者から重要な指摘がありました。その発言を要約すると、「新入社員の課題を本人とその直属の上司にヒアリングして回ったことがある。すると新入社員本人は、計画力が弱いです、課題発見力がまだまだです、など頭を使うスキルを足りないと捉える傾向があった。一方、上司の見方は違っていて、それは十分あると言う。むしろ主体性、働きかけ力を伸ばしてほしいと感じている。予定調和の「正解」を早く見つける環境から、答えのないものを自分で見つける、課題自体も自分で設定してやっていくのが仕事。若いうちは自分一人ではできなくて先輩を頼ったり、チームで進めていく。その際に求められる能力として何が必要か、が理解されていない。」 《主体性》は、自分の意志・判断で行動しようとする態度を意味します。何をするか、しないかの判断も含めて、自分の意志・判断で行動し、とった行動の結果について責任を負う当事者意識です。現実問題として、課題解決の手法やフレームワークを身につけたとしても、自分の職務に関する意義を理解し自ら課題を見つけ、解決のために周囲と協働しなければ、本当の意味での課題解決はできないでしょう。最近注目されているグローバル対応力についても、英語はツールに過ぎません。つまり、就業力として、課題解決の方法論や英語などのスキルを身に着けさせるだけでは足りないことになります。3.産業界が求める大学教育 前項の産業界ニーズ調査では、産業界のニーズに応えられる人材を輩出するために、大学教育に何を求めるか、も訊ねました。主要な意見は以下の4つでした。① 論理的思考力を養う教育を② 主体的な学びを③ 理系は基礎力を④ アクティブ・ラーニングの拡大を 企業が大学教育に期待することの根本は、「きれいに形をつくることが答えではないと分かってほしい。自分もゼミで発表して、自分ではできたつもりなのにケチョンケチョンに怒られることが週に1回はあり相当鍛えられた。それが今でも生きている。どこに課題があってどこに着目して、何が論点なのか。4年間くらいは本当に考えることをやってほしい。答えに至る紆余曲折に学びがある。論理的思考も課題解決能力もそういうこと。課題設定も自分でやるべき。自分もゼミで教授に、社会に出ても経済学は役に立たないが、思考の訓練が社会に役に立つ、と言われた。まさにそういうことを大学でやってほしい(文系人事)」と、今も昔も変わりません。さらに「与えられた課題を調べる際、今はネットで検索して、すぐまとまった情報にたどり着く。その状況の中で、どのようにして自分の頭で考えさせるかがますます大切な時代。答えが出ない命題を与え、考えをぶつけさせ、なぜそうなのかを掘り下げる。表面的なところで答えを求めすぎていることに気づかせ、深く考えることがいかに大切かを実感させる(文系人事)」教育を求めています。予定調和としての「正解」ではなく、自分の解を探求する教育、そのための論理的思考力は、大学という高等教育を受けた人材として基本能力であり、汎用的価値ではないでしょうか。 「②主体的な学び」については「ボランティアとかいろんな活動をするのもいいことだし、異世代間交流をやってコミュニケーション能力をつけてほしい。小さく固まった仲間内だけの言葉遣いではなくて、社会に出れば上下関係があって、上司部下の関係が必ず起こるので、上下のコミュニケーションが図れるものを学生時代にたくさん経験してきてほしい(文系人事)」と、自らコミュニケーションを働きかける主体的が大切と言います。「理系では、研究テーマとして教授の持っているものを下ろされることが多いらしい。スタートがそもそも主体性を欠く。何をやりたいか、学生が自分で決めないとやりきる気持ちも出てこない。テーマ設定や卒論、卒業研究も、スタートを学生が意思を持って進める形にした方がいい(文系人事)」と、主体的な学びを求めています。そうした作業を通じて、ものごとに主体的に取り組むとはどういうことかが体感できます。学業や大学生活でそのクセを付けられれば、社会人になっても仕事で主体性を発揮できるということでしょう。 「③理系は基礎力」について、理系採用担当者からは、「理系の学生は基礎の部分を徹底的にやってほしい。研究室に配属されてからの専門的な勉強がマッチする学生は殆どいない。工学系の知識で基礎の部分を100点にしておいてほしい。基礎が100点で応用力ゼロという若手社員と、基礎は軒並み80点で応用力が90点という若手社員では、どっちが伸びるかというと前者。応用なんてものは基礎さえしっかりしていればいくらでもできる。基礎が欠けていると安心して任せられない(理系人事)」との意見がありました。「基礎」がどの範囲を指すのか、インタビューでは明らかになりませんでしたが、理工系の学生が研究室での専門分野を活かせる仕事に必ずしも携われないのは事実であり、応用が利く基礎部分をしっかり身につけた人材が企業において活躍できるということは事実でしょう。 従来型の講義中心の授業形態に対する疑問の声も多数挙がりました。「昔のように教員が喋ったことをノートに取らせておしまい、のような授業形態ではなく、学生の意見を発言させる形式を増やすこと。気後れしないで自分の意見を会議で言えるような活発さや参加する姿勢を培う授業(理系人事)」、「ディスカッション形式はいいと思う。自分の意見も話すし、他人の意見も聞いて、自分が気づかなかった点を発見できる(理系人事)」と、教員と学生、学生同士の双方向の授業で鍛えられてこそ、社会人になって、企業組織の中での議論に耐えうるということでしょう。卒業生の意見も同様で、「自分で課題を見つけることは重要。大学では答えが決まっていて、問題を解いて答えを出していく作業が多いが、社会人になると、課題を見つけて考え、その中でこうしていった方がいいという作業になる(理系卒業生)」、「大学院生になって自分が調べたことを発表するとか人前でプレゼンする機会が非常に増えた。実際に社会に出た時には、授業で知識を入れるよりも、そっちの方がはるかに重要。絶対、大学生のうちに人前で何かを発表するとか自分の意見をしっかり述べる機会を設けた方がいいと思う(文系卒業生) 」と、ゼミや研究室でのプレゼンや議論、自分の解を突き詰める経験が社会人として必要な就業力を鍛えていることが分かりました。YNU AP/FD NEWS Letter7

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